出典:IBCパブリッシング㈱出版の “Lost in Tokyo”
ネイティブならではの英語表現の学習のために自己流で日本語訳したもので商用目的はありません。
Ⅰ
P.5-P.7
中に入ると、ダークスーツを上品に着こなした1平均以上の身長の豊かな白髪2の60代と思われるスリムな紳士が、部屋の中央の座卓から立ち上がった。
ウィリーは、おきまり3の名刺交換を想定していたので、コートのポケットの中の財布の横に名刺を準備していたが、その男は、ただ「田中です。よろしく4。」と言ってお辞儀した。
その部屋は、新鮮な香りを放つ畳で敷き詰められ、右側には一輪挿しを置いた床の間5があり、その後ろには水墨画の掛け軸がかかっていた。障子戸は山をモチーフに上品に6装飾されていた。
「お時間を割いてお越しいただきありがとうございます。」
田中はそっけない7笑みとともに言った。
「お気になさらずに。しかし、時間を節約するために早速8言わせて頂きますと、私は今、仕事を探していません。」
「はい、それは分かっています。」9 田中は答えた。
「しかし、君はまだ私の話を聞いてない。私の提案が君好みであるかもしれません。10」
「ええ、それでも先に言っておくべきだと思いまして11。」
ウィリーは笑みを浮かべずに応じた
「単刀直入に言うと12、君はフェイスブックでご自身のことを “investigator”と書いている。これが私の目を惹きつけた13。私は探偵を必要としている。」
「あぁ、それはすぐに解ける誤解です。英語での”investigator”にはいくつかの意味があり、それは、あなたが思っているであろう”探偵”のことをいつも指すわけではないのです。私は、海外のビジネス・パーソンが言語の壁のために彼ら自身ではできないこと、例えば会社概要やその類いのことなどを調べ簡潔に報告するのです。でも、実は、そのようなことはもうしていなくて、翻訳の仕事に忙殺されています。」
「たとえそうだとしても14、事実、君の資格や能力は私の依頼事項にふさわしい。是非、君に話を聞いていただきたい。」
「あの…そこまでおっしゃって頂いても…」
ウィリーは笑みを浮かべた、或いは、自分ではそうしたつもりではあったが、実際には表情は変わってなかった。「でも、時間の無駄になると思います。」
「本題に入る前に、この小さな紙ににサインして欲しい。とてもシンプルだ。無害だとさえ言える、なんてことはない15秘密保持契約書だよ。」
続く
- handsomely dressed ↩︎
- bountiful head of white hair
↳bountiful:(形)1.豊かな 2.気前のいい ↩︎ - customary:(形)例の、慣習となっている、いつもの ↩︎
- “at your service”:(I’m) at your service、手伝いを申し出る際に言ったり、丁寧な自己紹介の表現として使う。自己紹介として使う場合、相手からお金を払われているのでなければ相手に強い関心を頂いていることを表すか、ドラマティックな演出として使われる。 ↩︎
- alcove:(名)(部屋に付随して凹んだようにして作られた)奥まった個室 ↩︎
- tastefully:(副)(装飾・服装・制作物などが)上品に、趣味よく ↩︎
- brief:短時間の、しばらくの、手短な、簡潔な、そっけない cf. brief welcome ↩︎
- right off the bad:いきなり、即座に、すぐに(野球のボールがバットに当たって即座に離れる様) ↩︎
- I assumed that to be the case. ↩︎
- You might find my proposal to your liking.
↳liking:(名)好み、趣味、思考 ↩︎ - I thought I should warn you. ↩︎
- to get to the point ↩︎
- that’s what caught my eye ↩︎
- ” be that as it may “:仮に[たとえ]それがそうだとしても、そうかもしれないが、それがどう(で)あろうと、それはともかく ↩︎
- you might even say innocuous
↳innocuous:(形)1.無害の、無毒の 2.害のない、あたりさわりのない ↩︎