出典:IBCパブリッシング㈱出版の “Lost in Tokyo”
ネイティブならではの英語表現の学習のために自己流で日本語訳したもので商用目的はありません。
cf. SOIL & “PIMP” SESSIONSのアルバムに同名のタイトルあります。
恐らく関係ないと思いますが、このJazzyなアルバムを聴きながら原書を英文で読むのもイイかもしれませんね。
Ⅰ
P.3-P.5
「あぁ、やれやれ。」
ウィリー・グリーンは独り言をつぶやいた1。
ウィリーは、あの男と会うとろくなことにならないことを分かっているのに会いに行く自分に嫌気が差した。
実際、常連客であっても人に会うのは嫌いだった。
しかし、田中と名乗るその男は、最終的にはウィリーの判断と意思に反して会うことを同意させるほど執拗で頑固2だった。
「まぁ、すぐに終わるさ。」
ウィリーは、霧雨3の中、茗荷谷駅に向かう春日通りを歩きながら自分に言い聞かせた。
いつも利用しているコインランドリー4を過ぎ、行き来する女子大学生に目もくれることなく、お茶の水女子大学を過ぎ、自動販売機脇の頻繁に5ひっくり返るゴミ箱を通り過ぎた。
この面会が終わり、自分のアパートに戻ってまず最初にすることは自分のフェイスブック・アカウント削除すること。それが物事の核心だろう。6
” ウィリー・グリーン:翻訳者、作家、日本についての研究者 “
ウィリーは、仕事を始めたばかりの何年も前のにそのぺージを開設していた。
しかし今では必要ない。今では多くの顧客、いや、少なくとも食べていくのに十分な7だけの顧客を抱えていた。顧客たちは日本語の文をeメールでウィリーに送り、ウィリーはそれを翻訳して依頼主に返した。
面倒で、退屈で、時間を浪費するだけの面会は、もはや生産性も必要性もなかった。特に、雨の中を歩き回る必要がある場合においては8。
駅に近づくとウィリーは、小石川植物園と、過度に良い接客をするがお会計は天文学的な金額に達するお高くとまった9和食料亭 “みなみ” の方向へ向かって左折した。そこは主に経費で食事をする経営者タイプの人々向けであり、ウィリー・グリーンのような人々向けではなかった。
ウィリーは店に入り、入り口の傘立てに傘を置き、靴をスリッパに履き替え受えて受付に向かった。着物姿10の女性が、ウィリーがまるで長い間会っていなかった友人11であるかのような笑顔を浮かべて出迎えた。ウィリーは、彼女に田中さんと面会の予定があることを伝えた。彼女はその名前を認識していることを会釈で示し、ウィリーを迷路12のような廊下へ導き、たくさんの引き戸のうちの1つを開け、お辞儀をして彼に中に入るように促した。
続く
- muttered to himself : mutter(動) つぶやく ↩︎
- obdurate: obdurate(形)頑固な、人の説明を受け付けない(類)stubborn ↩︎
- drizzling rain ↩︎
- laundromat:コインランドリーは和製英語 ↩︎
- perennially ↩︎
- ” that seemed to be at the heart of matter ” ↩︎
- ” at least enough to keep food on the table ” ↩︎
- ” especially if it meant traipsing about in the rain “
↳ traipse(動)だらだら歩く、ほっつき歩く、ぶらつく ↩︎ - pretentious(形)気取った、もったいぶった、大げさな、これ見よがしの ↩︎
- kimono-clad(形)着物姿の
↳ clad(形)(服を)着た、まとった、着飾った ↩︎ - a long-lost friend(名)長い間音信不通だった友人 ↩︎
- maze(名)迷路 ↩︎
※下図は、春日通りと小石川周辺。ウィリーが通ったと思われる道、料亭「みなみ」はフィクションか、モデルの料亭があったとしても実際には別の名前と思われる。