『Season of the Apoptosis』
出典・引用元
「NINE STORIES ナインストーリーズ」乙川優三郎 著
シンプルな装丁(そうてい)に惹かれて手に取った本。
著者の乙川優三郎さん自体も初めて知りました。
最近は、啓蒙書ばかり読んでいたので、この大人向けの成熟した短編集は、最近少しマンネリ化していた生活に色合いを添えてくれたようでした。
最後に、この本について少し紹介をいれておきます。
タイトルが表すように9つの話の中のひとつのストーリーに、この”アポトーシス”という初めて聞く言葉が出てきました。
締めくくりの最後の文章です。
「人々の様々に流れる都会の川のような道にも、どこからか落ち葉がやってきて、ひそやかにアポトーシスの季節を告げているのであった。」
アポトーシスがわからないと、ここで表現されているダブル・ミーニングがわからないのです。
当然、アポトーシスが何のことか知らなかった私も「?」となりましたので早速いくつかのデータ・ソースから調べてみました。
①アポトーシスとは、あらかじめ予定されている細胞の死。 細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラムである。 細胞外から与えられた何かしらの障害(血行不良、外傷など)が原因で死ぬ「ネクローシス」の対義語として用いられる。
②アポトーシスとは、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死(狭義にはその中の、カスパーゼに依存する型)のこと。ネクローシス(necrosis)の対義語。
③アポトーシスは多細胞生物の細胞で増殖制御機構として管理・調節された、能動的な細胞死である。殆どの場合、ヌクレオソーム単位でのDNAの断片化を伴い、遺伝子によって制御されている。一方ネクローシスは栄養不足、毒物、外傷などの外的環境要因により起こる受動的細胞死である。
身近な例にて、自分なりに理解すると
葉が枯れて落ちる、皮膚が剥がれる、乳歯が抜けるのように成長の過程のために必要な、あらかじめ遺伝情報に組みこまれた予定された細胞の死のことかな。
ということで、このお話の中では、主人公が、「これまでの生活を犠牲にして前に進む時が来たことをにわかに認識した」ということを示唆して終わっているのでしょうか。
内容説明
①『1/10ほどの真実』日本とフランスに別れて暮らし、年一回だけの対面を続ける夫婦だったが…。
② 『闘いは始まっている』 ゆきつけのバーで憎からず思っていた女性バーテンダーの転職を見守る男。
③『蟹工船なんて知らない』義兄の葬儀で、昔一度だけ関係を持った女と出会い、思い出した夏の記憶。
④『パシフィック・リゾート』還暦過ぎの女友達二人。片や平凡な結婚人生を送り、一方は離婚して独り身。
⑤『くちづけを誘うメロディ』墓地で偶然再会した男女は、かつて短い間交際したアイドル歌手同士だった。
⑥『安全地帯』リタイア後の人間ドックで要再検査となり、急に不安を覚える夫と冷めた妻。
⑦『 六杯目のワイン』 定年間近の独身男が、結婚相手に求めた子持ちの女性と酒杯を重ねるうちに。
⑧ 『あなたの香りのするわたし』 出張先で夫が客死して十年。娘も成長し、自らも求婚相手が現れ転機を迎える。
⑨ 『海のホテル』 仕事で家庭を顧みない夫に対し、久しぶりに出かけた旅先で妻が下した決断。
人生の黄昏を迎える人々に光を当てた9つの物語。